2009年6月15日月曜日

『ナンパを科学する-ヒトのふたつの性戦略』

先月、日経新聞に取り上げられていた本である。

ピンクの装丁と、タイトルにナンパがでてくるが、そういう種類の本にありがちな、「恋愛マニュアル本」やフェミニストの意見書ではない。


本書は、進化心理学を主要フィールドとし、文化人類学、発達心理学、環境学、生物学、社会学など、学際的に様々な先行研究をとりいれ、多様な実験から(筆者が行った実験も含む)、男女の性行動のふしぎについて、述べられている。

「どうして、ナンパされやすい女と、されにくい女がいるのか?」

という質問を皮切りに、本書は、男女によって、また、個人差によってわかれる様々な性行動に絡むお題に対し、著者自身の価値観や思想は極力交えず、データからの分析、で挑む。
学際的なアプローチをとりつつも、結局のところ、中心となる分析は、進化心理学の立場からである。

著者自身の価値観は極力交えずとはいうものの、本書の垣間に、著者の考えが見えて興味深い。

「しかし,人間の人格や能力は際限なく環境によって変えることができると信じることは,自由主義的な考えなのだろうか?私にはまったくそうは思えない。」

これまで、男女のもたらす違いや、男、女それぞれの人格などについて、社会学、発達心理学、社会言語学、文化人類学では、そういう差異を作り上げた環境に依拠するところが多いと指摘されてきた。
たとえば、ジェンダー学、女性学が登場した頃も、社会構造や、家庭環境が、女性をどう形成するかに影響してくる、と。

しかし、筆者の研究にも登場するように、近年の進化論的、生物学的アプローチでは、親から受け継いだ遺伝的な要素が深く関わっているとされている。

学際的に文献を引用しつつも、筆者が政治的な理論的枠組みで、男女の違いを語るのを避け、極力、「科学する」ことにこだわっている点は、まともである。

ただし、たとえば、「芸能人になぜ離婚が多いのか」など、チャプターをあえて設けて解説しているにも関わらず、最終的な結論が、推測(assumption)に基づくもので、終わってしまう部分もあり、読後感がすっきりしない部分がある。

また、統計学も、図表でよく登場するのだが、指標、たとえば、*マークが何を表すのか、などが注意書きで記されていないため、統計をしらない読者には、図表がわかりにくいだろう。
1%で有意なのか、5%で有意なのか、進化心理学で最も使われる有意差基準を知るためにも
一般書なのだから、省略せずに、記してほしかった。

しかしながら、使用した統計や変数に関して文章で説明している箇所はあり、具体例をともなっていて、わかりやすかった。

本書は、学際的な研究に興味がある人には、非常におすすめである。専門書に近いが、チャプターやセクションのヘディングは、ナンパ、モテ、芸能人など、大衆の注目を集めるようなフレーズから始まっていて、とっつきやすい。
ジェンダー・セクシュアリティ論(社会学)で、時折見受けられる、”主張(根拠は自分。)”のような議論とは違い、根拠は常に、データをベースにしたものであることも、個人的には読みやすかった。

この本での最終章の結論は、結局は、まだ完結していないということである。
このように、無難なところで、各章の結論を終えているのは、研究論文としては常識的である一方、一般書としては面白くなくなってしまう。
しかし、著者のようにassumptionのまま、話を面白く暴走させずに抑えておくことも、ひとつのストラテジーだと思う。

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