2009年7月6日月曜日

『私を抱いてそしてキスして』

タイトルだけみると、なんかセクシーですね。
表紙に、黒人母親、黒人赤ちゃん、作者、の写真が映っていたのと、ハワイの内容だったので買ったけど、
写真がなかったら、恋愛小説だと思って、買わなかったでしょうね。
ブックオフで100円で売っていて、アマゾンでは、1円からあるそうです。

家田荘子『私を抱いてそしてキスして』 1990年 文藝春秋

約20年前に、アメリカでHIVが黒人、ゲイ、貧困地域で蔓延していく中、
ボランティアとして、心のケアを行う、体当たりなルポタージュ。

まず、結論から言います。面白いです。

家田荘子といえば、「極道の妻たち」の本が有名なので、
ブラック業界もしくは性的な何かをルポするイメージがあります。
関西の人は、家田荘子が、「2時ドキッ!」のワイドショーで、毎週火曜日、遙洋子(『東大で上野千鶴子にケンカを学ぶ』の人)らフェミニストたちと、ザ・女なトークをしてたイメージがあると思います。

そのため、私はこの本、当初は、期待値が低かったのです。安いというだけ。
HIVで死ぬ悲哀は、携帯小説でいまやオンパレードですしね。

ところが、この本は、非常に現実的な部分に即していて、興味深かったです。
きちんと、現場に自らが行き、1年かけて得たストーリーだということが、端々から読み取れます。
同じくアメリカでフィールドワークをしてた私には、
外国の地に飛び込んで、知らない世界に身一つで入り、社会奉仕することの大変さがよくわかります。

しかも、20年前、HIVに関する情報は錯綜していて、ネットも普及していない時代だったことを考えると、
HIVの人たちのコミュニティで、一緒に生活するのは、並大抵の努力ではないでしょう。

『私を抱いてそしてキスして』は、話の大半が、HIV患者と家田荘子との、葛藤、混乱、不安、などの感情と、それを乗り越えようとする行動です。汚いし、残念なところも多い。でもそれが、体当たりでフィールドに行った現実なのでしょう。

最後に、ハワイ州の感染率が上がっていることを指摘していました。
全米の中でも、楽園天国なことをやらかしてる州ですからねぇ。。。
根幹の産業がなく、観光地として生計を立てる州のため、歓楽街を中心に、
売春、違法ドラッグ、精力増強剤(バイアグラ)も堂々と売ってるし、日本語で書かれたパンフレットまで
街中にあります。ブラックガラスでプライバシーを保全して、リムジンサービスもあります。
宗教的観念も薄いです。ゲイのカップルに人気の州です。
日本人女子は、お金持ってる+可愛いということで、モテます。常にナンパされることでしょう。

私は、リサーチャーとしてハワイにいたので、こういう状況に、最初の半年、ショックを受けました。正直、ハワイに来たことを後悔しました。 下品な人、多すぎやん、と。
正直、日本人女子と思われたくなかった。

アメリカでHIVが爆発的に増えた80年終わり~90年代はじめ、日本人女子留学生も発症したそうです。残念ながら、今も、あるのでしょうね。
ハワイをどう変えるか、はこの本の目的ではないですが、 色々考える機会になりました。

この本のタイトル『私を抱いてそしてキスして』が言いたい事は、
HIVにもハグして、キスできるか、という家田荘子からの挑戦状と諭し。
接触だけじゃ移らないといえ、本当にそこまでできるひとが、どれくらいいるんだ、やってみろ、ということを1990年に問いただした本です。フィールド(現場)からのルポが好きな人におすすめです。

英語が苦手だ、というフレーズが何度もこの本に出てきますが、患者ケアサービスの研修を受け、黒人英語や、スラングまでも、きちんとコミュニケーションしている姿には、これこそが、言語習得の体当たりな気がします。

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