2009年7月15日水曜日

東京国際ブックフェアで考える②:「潜在力」「右脳」って何よ?

回のエントリーは実は「東京国際ブックフェアで考える②:著作権2.0の世界」にしようと思ってました。
それは次回に。

前エントリー「東京国際ブックフェアで考える①:脳科学と英語」に重複するのですが、
いくつかの幼児用教材(英語に特化しているものも、そうでないものも含む)の宣伝文句の共通項にあった
のですが、
「右脳」 の発達に着目したものがありました。
ロジックはこのようなものです。

幼児期に右脳をもっと発達させるべき→右脳が発達すると、こんなに言語(あるいは特定の能力。算数とか絵画とか)の習得に役立つ!!→わが社の教材Xは右脳発達にこんなに効果的→これは買うしかない。

まぁ、それなりに説得力のあるものだとは思います。
刺激を与えることによって、幼児は何らかの反応を示すはずなので、脳に負担がかかります。
その負担があるのと無いのとでは、なんらかの違いがあるのは間違いないでしょう。

でも、そもそもの前提なのですが、教材を買う前に最低限これだけは疑ってください。
①その能力と「右脳の発達」は結びついているのか?
 →右脳の発達がその能力の習得に結びつく?or 右脳の発達がその能力を何らかの形で促進させる?
②その教材はほんとうに「右脳の発達」を招くものなのか?
 →①が真であるとして、その教材を使った幼児と使わなかった幼児での長期的な比較は行った?
 →計量的に十分な被験者を集めて適切な実験環境で教材の効果を検証した?

では、言語の場合なのですが、
①:どうやら母語話者並になる鍵なのは右脳ではないようです。上級ドイツ語学習者(ロシア人)とドイツ語母語話者の言語刺激に対する脳波の違いを調べたところ、両者の間で決定的に違ったのは
  1)400ms(つまり1000分の400秒:4/10秒)前後で前頭葉(脳の前の方)で脳波に
やや違いがあった。
  2)100ms~200msの間で
左前頭葉の陰極にやや違いがあった。
つまり、「左」じゃん!!ということです。
しかもその差は微々たるものでした。逆にいうと実験中のドイツ語学習者はドイツでドイツ語を長期間学習している大学生です。
実験対象としては「頭を使って生きてきた人たち」「ドイツ語を恵まれた環境で学習している」人たちです。
この結果をどのように考えるかというと、
  1)学習することによって脳波のタイプを母語話者から見て「やや違う」程度まではいける
  2)上級でも「やや違う」ところまでしかいけない
  3)差を生みだしていたのは「左脳」
ってところでしょうか。ちなみに本当に左脳の脳波が母語話者と学習者の違いを生み出すのかといえば、
そのように結論するのは誤謬です。あくまで仮説として考えておいて、比較検証をしなくてはなりません。

②:長期的な比較検証を行っている教材にお目にかかるのはレアなことです。
これは別にいいと思うんです。やればなにかしらは伸びますから。ただ、本当に「効果性」「有効性」を謳うのであれば、検証は義務です。やらないとしたら(やっていないとしたら)、それは疑似科学に基づくエセ教材です。
「効果性」「有効性」は何かしらの形で数量化できるものなので(というか数量化できる複数の群を比較して「効果性」「有効性」をもとめる)、検証をやらないのにそのような宣伝文句をするのであればそれは嘘です。

ちなみに上の実験を取り上げた論文です。
Hahne, A. (2001). What's different in second language processing? Evidence from even-related brain potentials. Journal of Psycholinguistic Research, 30(3), pp. 251-266.

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